最後とはいったものの

『男同士の絆 ‐イギリス文学とホモソーシャルな欲望』イヴ・K・セジウィック

雨宮まみ、いいよねぇ……
前の記事、まっちがわたし風に叫んでいたのに笑いました。わたしってあんな感じか。そして、twitterを見返して、確かにあんな感じだな〜と思いました。松たか子〜〜〜〜!!!!!!!!!みたいなね。
あの本とは関係がないのですが、わたしは雨宮まみさんの40歳記念誕生日パーティーを資生堂パーラーでやった話が大好きで、もしわたしが死んだら、ああいうふうな葬式?パーティー?をみんなにやってほしいです。もちろん誕生日パーティーもやりたいです。

そして、わたしの最後の本。
最初に謝っておく。ごめんなさい! 全く、ちゃんと、読めていません!!
夏から半年読書リレーをやってきて、あ、結構読めるじゃん、なんだかんだでいけるじゃんと思っていたのだが、それが最後になって崩れるとは思っていなかった。ごめんなさい……
とはいえ、すでに全体には目を通していて、文章が書けない状況でもないので、締め切りを伸ばしてもらうことはなく(いや本当にそれを懇願する寸前まできていた)、書きますね。

言わずと知れた超名著。ジェンダーを大学で触れたら必ず言及される有名作。でもわたし、読んだことなかったんですよね。なぜかというと、そもそも男に全然興味がないから。女性が解放されるには家父長制をぶっ潰すのが大事っていうのはわかるんだけど、男にまつわる話は勘弁してくださ〜いと、そこまでいかないけど、平たく言うならそういうメンタリティだった。大学時代はもっぱら、まきむぅ(牧村朝子)の本とか読んでましたよね。わたしもレズビアンイベントに行けばモリガみたいな妻ができるのかなぁ〜〜とかポワワンと思ったりして。
ちょっと話がずれるかもしれないのですが、人が男の話をしているとき、男に興味がないわたしは、激しい疎外感に苛まれることがある。個人として男性と仲良くなることはあるし、男に嫌なことをされて、男ってなんなの!?みたいなのは人並みにあるけど、「男」という生き物について積極的に考えたいと思ったことがおそらくないんですよね。だから、ボーイズラブめっちゃ好きなレズビアン/バイセクシャルの女性って結構知ってるんですけど、わたしはそれに当てはまらないのです。女が好きです。

とても長い、長い言い訳を書き連ねてしまった。というわけで、読むのが遅れました…… なかなか手が伸びなくて…… しかも、冒頭だけでも読むかー!と開いたら、ゲイに読んでほしいなぁー!みたいなこと書いてあって、男性同性愛者かぁ…… クゥ……と思って…… ごめんなさい。
目を通してみてびっくりしたのが、すっごく……読みやすい。平易。わたしの先輩に、フェミニズム的な観点でいくとちょっとなぁ〜というようなことを言う人がいるんだけど、その人にこの本を勧められたことがある。確かにこれは、読めちゃうよね。
ただ、悔しいかな、しんどい。女を排除して、つながりを深める、”Between Men”(男同士の絆)…………… ああむかつく。大学時代に読んでいたら、うるせーぼけ!! と思っていただろうし、ホモソーシャルはもうわかったから、女の話を出せ!!と暴れていただろう。というか、いまもそうしたい。この本を読んでいていいね!と思ったのは、序章(序章かよ)p3.「現代の女性たちについて、現段階で次のように述べるのは、ごく当然のことと考えられよう。政治的立場がいかに対立し、感情がいかに衝突しようとも、女を愛する女と、他の女の利益を促進する女−−教え、学び、育て、授乳し、女について物を書き、女のために行進し、女に投票し、女に職を斡旋する女−−は、相互に重なり合い、密接に関わり合うことをしているのだ」。女の敵は女っていうのは、家父長制に捕らえられた女の間だけだぜ!!聞いたかお前ら!!と見せびらかしたくなった(誰に?)。まあでも、ゴーストバスターズリブート版しかり、こういうテキストがきっちり読みこなされてきて、社会情勢が変わったからこそ、わたしのような人間の娯楽が増えたともいえる。
面白いのは、こういう本がもはやフェミニズムの古典になっているということですよね。同性愛者の解放が進みつつある〜みたいな記述もあって、時代ですねと思いました。おそらく今なら、結構進んできてますやん、という記述になるだろうから(日本は違うけど)。これからもこういうデカい本が出てくるだろうから、それを間違いなくキャッチできるようになりたいなー、そのためにこういう本読みのやりとりは必須だなー、勉強しなきゃなーと思いました。

最後、こんなんでいいのか……というレビューではあったけど、面白かったねぇ〜! 鳥飼茜も読みたかったけど、それはまた今度、会うときまでに読んでおくよ〜!

で、最後の指定ですね。最初から決めていました。作者被りが入っちゃうのであれですけど、別にそういうルールはないし。
相互理解を深めるという意味では、この本の最後の方、円城塔のまとめ方が上手で惚れます。そういえば、わたしが円城塔を好きなのは、男臭くないからかもしれない。中にもそれを妻に言及されています。こういう結婚生活ならやりたいかもしれない。

よろしく!
誕生日おめでとう!
次回:『読書で離婚を考えた。』円城塔+田辺青蛙
12月29日まで

懐かしい日本の風景

妹尾河童「河童が覗いたニッポン」

身体が猛烈にかゆい! 半月前に結膜炎になって、コンタクトレンズを禁止された週があったんですね。で、ちょっとややこしいおしゃれな金属製のメガネ(ややこしいというのをメガネの形容に使うのははじめてだ)を掛けてたら、耳の後ろがかぶれてしまって。そのメガネもずっと前から使っていたやつで、別にかぶれなんて起きたこともなかったし、むしろ肌トラブルとは無縁の人生を送ってきていて、疲れてるときにややこしいメガネをかけるとこうなるのかなぁ、まあとりあえずプラスチックのに切り替えておくかとか思って放っておいたら、あれよあれよと耳の裏全体、首、顔、腕などにも広がってしまって。はじめは盛り上がっているだけでかゆくなかったのが、だんだん悶絶するかゆさになってしまって。なににも集中できないし、なにより眠れないんです。で、きょう皮膚科で、自家感作性の皮膚炎ねーと言われて、薬を出されました。とにかく、顔がプツプツしているだけでも気分として最悪だし、その範囲が数時間毎に広がっていくし、もうダメ、読書リレーにこんなに関係ないことを書かないとダメなくらいダメなんですけど、でも本は読めましたので。レビューしますね。

妹尾河童の『河童が覗いたニッポン』です。Amazonで中古のを買いました。新潮文庫。わたしは本を読むときにはまず後ろから開くのですが、和田誠が寄稿しており、ビビる。久しぶりに見たなー、和田誠の絵。そして本文を開く。ちなみにわたしは妹尾河童のものを見るのが初めてです。すごいね! 小学生のときによく緻密な迷路を書いていた男の子がいたけど、あれに似てる! そして字体が非常にかわいい! たしかにこれは図鑑がわりに読める!
ただ、この絵、じっくり見ることはできないです。細かいものが苦手なんですよね。間違い探しの絵本とかあったじゃないですか、細かいやつ。あれも小さい頃から苦手で、持っていません。ただ嫌いではないので、休み休み見るみたいな感じです。緻密ですごい。皇居の絵とか、すごかった。
文章に関しては、昔の日本ってこういう感じだったよね~!としみじみ思う感じで。皇居のところと、刑務所のところが特に面白かったんだけど、こういう言論って今発したらもはやリベラル扱いなんじゃないかなって思いました。悪者は死ぬまで働かせろみたいな、ほんとに新自由主義者が言いそうじゃないですか?(テキトー) そうそう、人権って口に出しても攻撃されない社会が過去にあったのだよね~と思いながら読みました。刑務所なんか、ほんとに、昔のルポって感じで、初めて読むのに懐かしい感じがしたな~(ここで、もしかして再読かもしれない?と一瞬思うが、おそらく初めてです)。

次の本ですけど、もうかゆくて、ただただ現在がつらくて、もう無理なんですよ。すべてを無に帰したい。それが不可能であれば、やさしい何かに包まれたい。でも支配してくるやさしさじゃなく、自立を求めてくるやさしさがほしい。
そういうとき支えてくれる文章を書く人が、……………いました!日本は惜しい人を亡くしましたよね!まじで!

じゃ、12月9日(日)までに、よろしく!

次回:雨宮まみ『まじめに生きるって損ですか?』

12月9日(日)まで

深い、血と暴力と、緑

深緑野分『オーブランの少女』

なんて綺麗なペンネームなんでしょうか。というか、ペンネームですよね? 中身もこれを裏切らない美しさでした。そして血、暴力だった。
前回オススメした町田康『告白』は、読書リレーをはじめることになったときからずーっと候補に入れていたやつで、でも物理的に痛いのが苦手だと言っていたので避けてたんだけど、この前の記事を書いたときにちょうど氷結9%を飲んでいたので、もうめちゃくちゃになって、すすめてしまったんですよ。酒のせいにするのはよくないね……。酒を飲んだときに出るのは、その人のほんとうの姿だね。

さて。今回教えてもらったのは深緑野分『オーブランの少女』。これも血と暴力だったんだけど、やっぱり、まっちがすすめてくれる血と暴力の話はもっと美しかったですね。すごくすごーく、面白かったです! ベーコンエッグが食べたくなったけどベーコンを切らしていて、コンビーフエッグにすることにして、食べてから一気に読みました。
この話、タイトルでぐぐると、「百合」とサジェストされる。百合……です! たしかに、百合ですね。百合の定義が実際あんまりよくわかっていないのですが、確かに、帰納法的にいって、百合でしたね。からだに障害を抱えていたり、疾患を持っていたりする少女たちのサナトリウムで起きた事件の話。そして、その事実がわかったとき……。という話ですね。

この人のペンネームから見てとれるように、濃い木々のにおいが今にもしてきそうな話です。耽美的と感想に書いている人たちもいたけど、むしろ清々しい、さっぱりした文章の書き方じゃないかな。非常に読みやすい書き方でした。たしかにシチュエーションはお耽美な雰囲気もあるんだけど、この話の魅力は、もっとカラッとしていて、描き切った少女たちの生活と、血と、暴力だと思います。そして、ここでいう血というのは、暴力によって流血するものと、からだに流れている、そして親に流れている、よって共同体意識のようなものを呼び起こすものと、ふたつを指していますよ。短い話だから、最後までたどり着いたとき、「え!」と言ってまた冒頭を読んじゃったよね。刺激的な話で、本当に面白かったです。全く普段やらない読書でした。あとやっぱり、短編の読後感は、長編とはまた違って、いいよね! 終わった後に疲れた〜ってならない感じが。それは町田康の『告白』みたいな長編を想像して比較しているからでもあるのですが……。

そういえば、前回、まっちから「読書遍歴とか、読書に関するエトセトラ的なこと」をリクエストされていたので、それにお答えしながら、いかに普段『オーブランの少女』的な読書はしないか、証明しようと思います。(”ない”ことの証明は難しい)

この機会に振り返ってみてよくわかったのですが、ざっくりいうと、わたしの読書は、「『わかる』ようになるための読書」でした。だから、まっちのことを「わかる」ようになるためだったらいくらでも読めるんだけど、そうじゃないと読めないみたいな本がわんさかあるわけですね。わたしの知的好奇心が働かないと読書をしないというのと、一つのテーマについては深く勉強できるけど、なかなか視野が広がらないという欠点を持っていて、そういう意味でこの読書リレーにとても助けられているんですよね。

あと、割と大学時代によく本を読んだので、自分の中に影響を与えているのもその時期の本なのかなぁと漠然と思っていたんだけど、違いました。おそらく読書する習慣ができたのは、幼少期だと思う。あと中学生のときに毎日本屋で待ち合わせをしてくれた友達がいたのも(その子のことが好きで、彼女が読んでいる本を読ませてもらったりしてましたねぇ〜、青春……)大きかったようですね。

で、やっぱり、よく覚えている本は何かを説明している本だったり、それを読んでわたしが何かをわかったと思った本だったりするわけで、「わかりたい」がわたしの読書欲?の原動力になっているようです。だから小説あんまり読まないんですよね、まどろっこしくて、「本質を先に書いて!よろしく!」みたいになってしまい、最後まで読めない。あと、有名作も、心底興味が湧かなければ読み通せない。だから、まっちが前回書いていたような、「時間を返せ!」って思ったこと、ないです。あ、これ今読めないやパス、が続いていく。逆に言えば、「面白かった〜!」って思うような本ばかり読んでます。読んだと言い切れる本は少ないんだけど、目を通し(て、途中で捨て)ている本は多いっていう感じですかね。あ、すすめた本は全て、冒頭から最後まで、読んでますよ(ルール通り)!

次の本のことを考えます。
今まで読んだ本のことを考えたら、大好きな本の中にはけっこう血と暴力だねとしか言えないものが多いことに気づきました。村上龍とか、小川洋子の初期とかね。そういう話がもともと好きなんですよね。
とはいえ、『告白』もそういう話だったし、もっと軽く読めるほうが楽しいですね。わたしがエンタメ系に触れず純文学を読みまくっているということも分かったし。
……………でも、ごめん!!!!!! 「わかる」本の話をしていたら、これしか思いつかないや!!!!!
長いけど、図書館で借りてね!!!!!

次回:11月19日(日)まで ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン』

上の文章を書くのに使った思考の残滓ですけど、名残惜しいので、置いておきますね。
書いた本は全て最初から最後までページを繰っていますよ!

  • おそらく生育上初めて夢中になった本は図鑑。
    • 家に恐竜図鑑と星座図鑑と子ども用の百科事典があって、そればっかりずっと読んでいた。
    • シンデレラとか白雪姫とかも読んだ記憶があるんだけど、それは妹が産まれてからだと思う。
    • 好きでよく読み聞かせしてもらっていたのは、『ダヤンのミステリークッキング』
  • 小学校
    • ワープロを使ってレシピ本を模写するのが好きな子ども。
    • ほどなくして家にwindows95がくる。ホームページ作りにはまり、HTMLを勉強する。HTMLに関するサイトや本に没頭する。
    • やったこともないゲームの攻略本を読むのにハマる。
      • 一番よく覚えているのは、MOTHER1・2の攻略本で、攻略本を読みこんだあとに実際プレイしようとしてみたんだけど、すぐ飽きてやめてしまった。
    • 漫画も並行して読んでいて、りぼんと、手塚治虫。
      • ブラックジャック、火の鳥、ブッダ、アドルフに告ぐ、陽だまりの樹。
    • 友達が赤毛のアンとかあしながおじさんとかハリーポッターとかダレン・シャンとかキノの旅とか読んでいるが、無視。
      • あまりにもそのあたりは読めない。今も期日と理由がないと難しい。
      • ハリー・ポッターは二次創作の小説を読みたくて読んだ。ルーピン先生のことが知りたくて。
    • 国語で一番好きなのは説明文。
  • 中学校
    • 友達と毎日本屋に遊びにいっている時期。
    • 小説が読めるようになる。
      • 国語便覧に載っている人たちを知っているのが嬉しかった。
      • ネタバレを先回りして知っているのが嬉しいみたいな感覚?
        • 一番最初に読んだのは、当時先鋭の新人、乙一。
        • 横溝正史(好きな子が読んでいた)
        • 京極夏彦(分厚くて興味があった)
        • 涼宮ハルヒの憂鬱とか西尾維新の物語シリーズとか空の境界とか、ラノベ(同級生にすすめられるままに)
        • 嶽本野ばら(エロガキ)
        • 村上龍とか村上春樹も
          • 村上龍『限りなく透明に近いブルー』『コインロッカー・ベイビーズ』を母にすすめられて読み、次に自発的に手に取った『海の向こうで戦争が始まる』で、スキ〜となる。
          • 血と暴力ね。
          • 村上春樹は、あまりに一気に読めてびっくりした以外、よく覚えてない。
        • 江國香織も、読んだけど覚えてない。
        • 『人間失格』『金閣寺』『小僧の神様』『山椒魚』『ロビンソン漂流記』『野菊の墓』『海と毒薬』とかも読んだ。文学文学〜
        • 『枕草子』とか『方丈記』とか(古典が読めるようになると読める日本語が増える!)
          • もう絶版っぽいから課題本としてはオススメできないんだけど、酒井順子の『枕草子REMIX』という本がとてつもなく面白いです。
        • 殺人事件のルポを読みまくってた時期があった
          • 中二病がひどかったのもあるんだけど、まあ平たくいうと思春期はつらかった。
          • 血と暴力ね。
    • でも、一番衝撃を受けたのは、養老孟司の『解剖学教室へようこそ』
      • この本の中にある、あるモノ・コトを示す単語が生まれるのは、物を切断するからなんだよ!という考えは、今も有効活用している。
  • 高校
    • もう完全に今の感じ。
    • この頃、『乳と卵』が芥川賞をとる。
      • 一度これを読んで、発狂します。
      • 女性性に耐えられなかった。
    • 小川洋子『妊娠カレンダー』
      • これは発狂しなかった。女性性をぶっ殺す、ぶっ壊すみたいな内容だからいけた。
      • このときに村田沙耶香を読んでいなくて本当によかった。
    • 大江健三郎
      • 血と暴力ね。
    • 漫画もよく読んだ。
      • 中村明日美子とか、オノ・ナツメにハマる。
        • 血と暴力ね。
    • あとはひたすら、エロ小説。
      • 西田三郎のやつを、めちゃくちゃ、片っぱしから読んだ。私生活が抑圧されすぎていて、もう無理だったときね。
  • 大学
    • 大江健三郎を再読
    • 円城塔!!
      • そのときハマっていた大学の授業と内容がリンクしていて、それで興奮して好きに拍車がかかったというのもある。
      • 小説が意味不明なのに、エッセイが読みやすいところが難解で、わかりたい!という気持ちになる。
      • でも、おそらく氏の書く文章は小説もエッセイも文法が変わるわけではなくて、わたしが単に小説の論理構造を理解できていないだけなんだろうという仮説も既にある。
    • 村上龍を再読
      • やっぱ血と暴力はいいよね。
    • 学術書を読まされて開眼する
    • 思考法みたいな本も読む
  • 現在
    • 新書、
    • 純文学、
      • 今年、ようやく村田沙耶香に出会ってしまった。とんでもない人だった。
      • 町田康が好き。
        • 血と暴力ね。
    • 軽く読めるエッセイとか、ビジネス書に逃げがち。
      • 『LEAN INとか、結構面白かったよ。
      • 『勉強の哲学』もここに入るか。
    • ごくたまにレシピ本。

言葉遊びが好き

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

話題の作者の本を読みました。そして増えていくハヤカワepi…… 自分が普段いかに偏った読書しかしていないかよく分かって、読書リレーは本当にいいね!

解説で柴田元幸も書いているんだけど、これ、あらすじ書くのためらう。端正な語り口というのも本当にそうで、静謐できれいな文体で、静かに静かに不穏な感じとだけ書いておくか…… 前半は本当に、謎が謎のまま不穏に書かれていて、みんな爆発して死んじゃって後のページは全部白紙になっちゃうんじゃないかと思った。(こう妄想していて思うのだが、この本の終わり方は下手に爆発して死ぬより悲しいと思う)
普段あけすけにものを言いがちなわたしだけど、ここは少し我慢してあらすじは書かないでおきます。ただ、言えるのは、おすすめされなければ絶対に読まなかった本だけど、読んでとてもよかったってこと! 久しぶりに小説としてのレベル(?)が高いものと戦ったなぁという思いになりました。ありがとう。
ていうか、まっちってめっちゃ小説読んでるね。ふたりの読書量って比較してみたことないけど、まっちのほうが圧倒的に小説を読んでいるね。もっと教えてほしいし、それよりも知りたいのは、なんでそんなに本を読むんですか? そして、どうやったら面白い小説にあたるんですか? わたしはあまり読まないので、単純に興味があります。空想の世界に行っていることに何か関係があるんでしょうか? 教えてほしいです。

そして、ここまでやってきて気づいたのですが、まっちが気に入った本って、レビューに文体が移りますよね? 栗原康と、この前もちょっと移ったと思うんですけど、どうなんでしょう。リズム感がいいのが好きなのかしら?
リズム感というと、このまえ西尾維新の話をしてましたが、わたしは西尾維新読んだことがあるよ!あんまり文字読めないから、ラノベばかり読んでる時期があって(失礼か?)、空の境界とか物語シリーズとか涼宮ハルヒシリーズとかざっと読んだよ。そして西尾維新はぜんぜん嫌いじゃないです。むしろ好き。羽川翼さんが好きです!そして、繋げるのが好きなわたしは、ここから次の課題図書へ無理くり繋げようとしていますよ!

西尾維新みたいな軽妙な語り口といったら、いや、西尾維新にすればいいんだけど、そうじゃなくて。もっとわたしが読んだときにこころを抉られた本にしたいと思ってね。西尾維新みたいな軽妙な語り口でもっと抉ってくるやつ、町田康でしょう。
町田康の『告白』、長いしエグいししつこいですが、とてもいいので、読んでください。有名だし代表作だし、もう読んでるかな? どちらにせよ、とてもいいので、(もう一度でも!)読んでください! わたしが去年読んで最もガーンときた小説です。

次回:10月29日(日)まで 町田康『告白』

2015年のインターネット

カレー沢薫『ブスの本懐』
 
まっちが円城塔を気持ち悪がりながら読んでいてニヤニヤしました。なぜなら絶対そうだろうと思ったから!! 個人的には『烏有此譚』の方が好きなんだけど、そっちじゃなくてよかったかもしれない、『烏有此譚』の方が気持ち悪く、『道化師の蝶』の方がまだわかるので……。あと、円城塔はわからない話を書くので有名だと思うのですが、エッセイはびっっっっっっくりするくらい読みやすく、わかりやすく、推察なさっていたとおりにお料理にも凝ってらっしゃって面白いのでオススメです。読んでね〜!!
 
さて、カレー沢薫先生の『ブスの本懐』を読みました。cakesを購読していたことがあったので、カレー沢薫先生は知ってる。でも一体なんだろう?なんか思っていたのと違う……?と思いながら読み進めていったのですが、猫海沢めろん先生と混同していました。なんかこの本が書店に並んでるの少し前に見たな、また今度少子化がらみの小説?かなんか出したんじゃなかったっけ?多筆な人なんだなぁ……と思っていたんですけど、繰り返しますが、それは猫海沢めろん先生(ちなみに少子化の本は今年の7月に出たらしい『キッズファイヤー・ドットコム』)ですね。
 
感想としては、本人もあとがきに書いていてウケたけども、あまりにもブスという言葉がたくさん使われすぎていて、気が滅入った。ただエッジの効いている言葉遣いは面白かった。これはですね、わたしは円城塔にもこういう面白さを感じることがあります(また円城塔の話か?)。しゃもじの位置エネルギーの話とかするんですよ(また円城塔の話です)。翻ってカレー沢先生の話をしますが、ananのセックス特集のところが一番面白かったかな、ブスという言葉が比較的少なくて。そして他のコラムだとヤケクソで書いていてもはや虚無なんだけど、セックス特集だと割とまともなことを言っていたのもウケた。全体的には2015〜2016年くらいのインターネットという感じがした(そりゃそう)。
 
次にまっちに読んでもらいたい本の話をします。
まっちが純文学を克服しかけているところで気づいたんですけど、わたしが読む小説って、ほぼ純文学ですね。太宰三島などなど。大江健三郎に精神を殴られてきた奴はだいたい友達、村上春樹と村上龍を両方読んで個人的には村上龍の勝ち!、小川洋子最高、町田康大好き、俺たちの黒田夏子、いま読みたいのは田中慎弥。ていうか早稲田文学増刊女性号買ったんですけど、これヤベェよ〜、 裏表紙をもう一枚めくったページをみて!! それと川上未映子の前文だけで買う価値あるよね〜! あっもちろん俺たちの黒田夏子も最高だったのですが! あぁ〜!!
 
……話がめちゃくちゃずれたけど、そのまま続けます。
上記のように、わたしは学生のときに純文学ばっかり読みまくっていたくせに、国語が嫌いでした。こんなので点数取れてもなんの足しにもならねぇ、みたいなふざけた姿勢だったんだよね。
でも、現代文のややこしいのは好きだった。今でも覚えているのが、ジャック・ラカンの「人は他者の欲望を欲望する」という概念のことで、高校生のときにこれに邂逅して、めちゃくちゃ興奮したんですね。で、これって今思えば、別に問題がややこしいとかじゃなくて、アクロバティックな論理とか、言葉の打ち出し方に興奮しているわけですね。それは今のカレー沢薫先生の本を読んで言葉遣いを面白がる自分と変わらない。
これって、少し前までは学問をする人の間でしか共有されなかった言葉遣いなんだろうけど、今だとインターネットの言葉遣いって感じが、なんとなくですけど、わたしはします。それでいうと、斎藤環とか、信田さよ子とか、國分功一郎とか、千葉雅也とか、めっちゃそこらへんのインターネットに近いような気もする。『勉強の哲学』は最近読んだそういうものでもけっこう面白くて、特にわたしはアイロニーの記述のところがグサッときました。まっちにはわたしがここで言った言論?の雰囲気って伝わるんでしょうか? ぜひ読んでみてください。
 
ちなみに、まっちが論理と感情でいうと感情側だ!!と言っていたのを見て、いま性格診断をやってみたのですが、16類型のやつだとINTJ型でしたね。内向型・直感型・論理型・計画型・慎重だそうです。ふ〜ん…… あ、あと、人間は感情があるからこそ人間なのであって、感情を論理のコーティングで正当化したがる人がいるというだけだと思います。ですので、論理と感情が対立するというのは、やっぱおかしいなとわたしも思います。何の弁明をしているんだ?
 
次回:千葉雅也『勉強の哲学』 10月9日まで

生殖、エッチだな〜!!!

梨木香歩『沼地のある森を抜けて』
 
エッチな話だな〜!!!!!!!!!! 思わず太字にしたくなるくらいエッチな話だった。読ませてくれてありがとう!そして、タカラヅカについて語ってくれて、本当にありがとう!一つずつ打ち返していこう。
 
まっちがタカラヅカを好きな理由、女子校感にあり。一瞬で納得できたよ! 舞台裏も含めてタカラヅカ!それはファンに語ってもらわないとわからないところなんじゃないかと思う。外から見ると、キラキラステージしか目に移らないもんね。確かに、誰かと誰かのキャラクターを楽しむところに焦点を当てたら、あんなにたまらないものはないと思う。学校時代から存続する先輩・後輩・同期関係とかがあるんだし……。
 
そして、まっちは、幻想的・空想的なものが好きだね!(やや強めの断定)いや、前回の記事でも空想小説の話を出していたし、そりゃそうだろという話でありますが。絨毯を踏んで十代の自分に戻れる気がするって、うっとりしちゃう表現よね。今回の本も、まさしく、幻想的なお話だったし。
 
対してわたしは、前回分析していただいたとおり、分析・考察・現実人間なんですよね。この読書リレーをするようになって今まで読んだ本を見返すことが増えたんですけど、びっくりするくらい、社会、特に人殺しの本ばかりなわけよ。ルポタージュとかエッセイとかを手に取ることが多く、新書コーナーにもよくいる。ファンタジーはほとんど読んだことがない、ハリー・ポッターシリーズをアズカバンくらいまで読んだ記憶があるかないか、おぼろげ。だので、この読書リレーで読ませてもらうくらいがとてもちょうどいいのではないかと思うんですよね。何から選んでいいかわからないし、何より「まっちが読んでいる本」というだけで一つタグが付くわけなので、どうやってまっちはこれを楽しんで読んでいるんだろう?という軸ができて、ぐっと読みやすくなるわけです。とてもありがたく思っております。
 
で、そうなると、わたしはSFも別に好きじゃないというところになるわけですよね。確かに好んで選びはしない。なんでこんなわたしが、空想世界ど真ん中、日本のSFといえばと出てくるところの円城塔作品を喜んで読んでいるかというと、小説の限界を探っているところが好き(言い忘れましたが、わたしは実験小説と呼ばれるものが好きです)なのと、無限の話をしているのが面白いからです。で、それはちょっと置いておいて、無限、宗教的に考えると円環、みたいな話になってきますね、とすると、今回の課題図書にも繋がってくるわけで。
 
梨木香歩『沼地のある森を抜けて』は、ぬかどこを起点にして主人公が自分のアイデンティティを探す旅に出る話、プラス、生物系のミクロな営みとマクロな営みをからめてしまうぜという、超壮大な、エロい話(例によってざっくりだよ)。エロい話だよ!とまとめられると即物的すぎて、ファンの人には怒られると思うけど、わたしのあけすけなところがよく出るワードだと思い、残しておきます。手塚治虫的な、火の鳥的なドキドキ感があり、ギャグ?あり、哲学っぽい問答ありで、主人公、一体どうなっちゃうの〜!?的な面白さがあり、ファンタジックな意味でも、後半は冒険譚としても、楽しめるお話でした。あ、もちろん細胞とか菌類とかああいうのはわたしにもわからん。
この本に出てくる主人公の久美も、風野さんも、女性らしさ・男性らしさを捨てつつあるというところが、この本のキーですよね。後半、その二人が生殖の謎を解く!みたいな感じになってきて、まじか……!?と思いました。わたしも女性らしさを捨てつつある部分があるけれども、生殖の謎とか突っ込みたくないから。いや、まあ、ぬかどこを押しつけられて、叫び出したり、いきなり腐ったりしたら嫌だけど。途中、主人公が概念としての母キャラクターをぶっ殺して、うわー、怖いよ!と思ったんだけど、そこからはもう、どんどん、生殖の謎に迫る……!って感じになるんだよね。生殖の話、怖い!! そして、まだこれを言語化できるほど、わたしの中の生殖イメージ(何それ?)が、固まってない!! だからエッチ!!と言って逃げるしかない!! ごめんなさい。これからの人生かけたらちょっとわかるはずなので、そしたらまたどこかで語りますね。(あ、繰り返しますけど、まっちがこの本を紹介してくれたことに対して非常にありがたく思っているし、読めてよかったと思っているよ。)生殖がテーマって超怖いんだけど、梨木香歩の圧倒的ファンタジック文筆能力と、終盤の怒涛のレトリック(明らかに内容の濃さが変わる)で一気に読めて、どっぷり世界に浸かりましたよ。
 
何度も繰り返すが、わたしにとっては生殖の話は怖いんですけど、一つ、自分の生殖イメージについてわかっていることがあって、それは、人体を経由しなければ平気なんです。つまり、概念としての生殖とか、無性生殖とかはウワッ、怖い〜!とはならないわけ。むしろ、概念が増えていくとか、そういう話はすごく好き。で、思い出しますよね? そろそろ次の課題図書、いきますよ。円城塔ですよ!!!!!(ここで立ち上がり、机を叩く)円城塔といえば、無限と、円環なので!!!!!!
 
……と言ってもよくわからないと思うので、実際に読んでいただきたいのです。『烏有此譚』。手に入れば、ぜひこれを読んでいただきたい。まさに円環の話。
しかし、amazonにも今在庫がないようなので、もし手に入らなければ。
第二希望、『道化師の蝶』。これは手に入ると思います、芥川賞を獲ったやつなので。
よろしくお願いします。9月19日(火)までです。

次回:『烏有此譚』あるいは『道化師の蝶』 9月19日(火)まで

謎の熱狂、タカラヅカ

細川貂々『タカラヅカ 夢の時間紀行』

栗原康、楽しんでもらえたみたいでよかった!わたしは他にも『はたらかないで、たらふく食べたい』『村に火をつけ、白痴になれ』と2冊読んでいるんだけど、あの軽快な文章は他2冊とも健在。すごく面白いので、ぜひ読んでみてください。わたしが読んだときは、人の一生をこんなに面白く書ける人っているんだねぇと思いましたよ。

まっちのその変な夢の話、ツイッターで書いてたよね? 一読したときに、まっちは何を言っているんだ!?(笑)と思った。しかしうまく今回の本とぴったりですね。今回は細川貂々の『タカラヅカ 夢の時間紀行』。

まっちと一緒に宝塚歌劇を観にいったことがありましたね。何回か一緒に行ったんだっけ? 大学の友達がほぼSS席のA席を譲ってくれて、娘役トップの人にウィンクされて死んだ記憶があります。
宝塚歌劇の面白いところは、わたしにとってはファンの特異さなんですよね。写真売り場とかマジで壮観だし、親子代々、なんならひいばあちゃんから好きですみたいな人もいるでしょう。親子代々で好きっていうのはもしかすると他の劇団でもあるのかもしれないけど(とはいえ、このまえ劇団四季が親子二代に渡ってライオンキングみよう!みたいな広告を打ってて、ここでも二代かぁとは思ったんだよね)、それでもこの女を熱狂させる宝塚歌劇とはなんぞや、という気持ちが未だに拭えないわけです。わたしはむかし母から「宝塚(歌劇)に行く人はみんなレズ」みたいなことを言われていたけども、むしろ宝塚歌劇はヘテロセクシズムが激しいしね。というか、そんなに単純にレズビアンが一堂に会するようなところがあるならセクシャリティ研究も一気に進むだろうし、女性がもっと連帯できる社会であるんだろうね。……と皮肉めいたほの暗い気持ちになりますね。

それはさておいて、わたしのように、眺めるのに不思議な気持ちを持つ人間も多いであろう、女の歌劇たるところの宝塚歌劇。この本はその歴史を丁寧に描いている。歴史の解説書として、真面目に読めました。
新発見がたくさんありました。昔の女性はショートカットだめだったのか、そうか!!とか。はじめは娘役が人気だったんだ!!とか。そもそも余興だったんだ!!とか。あと当然のことながら、社会とともに生きる団体でもあるわけですね。戦争の時代になると演目が変わったりとか。宝塚歌劇に特別興味を持たないと知れないような内容がてんこもりで、別段ファンでないのに知れたわたしはとてもおトクな気持ちになりました。
しかし、感想を書くのはとても難しいよ、これ!!(笑) 良くも悪くもわたしには宝塚歌劇を面白がることしかできないので、まっちからは好きなところをたくさん聞きたいな。どうやって7歳のときに魂を売り渡したの?

そして、次の本も悩む!!(笑)コミックってわりと好きなんですけど、なんか手元にあるのは重たい内容のばっかりで……。
本読んでる人なら面白いんじゃないですかね? 施川ユウキ『バーナード嬢曰く。1』でしくよろ!29日(火)までで〜す。

次回: 8月29日(火)まで 施川ユウキ『バーナード嬢曰く。1』

マーガレット・アトウッド『侍女の物語』

まっちに『乳と卵』を読んでもらってよくわかったのは、確かに、これ、緑子以外の話でもありますよね〜〜!?ってことで、わたしはこの話を読むときに完全に娘側・緑子の気持ちになっていたんですよね。ていうか、この嫌悪感の露呈のしかたが、モロわたし。そもそも紹介するときに「若い女子の性欲といえば、『乳と卵』!」みたいなことを言っていたわけで、この話を若い女子の性への思いとアンビバレントな気持ちを性欲と呼んでいたわけだけども、確かに改めて読むとこの本はそんなにそこばかり集中しているわけではなかった。思うに、これを一読した高校生の時の自分の怨念みたいなものが、この本の読み方を今も歪めていたということですよね。まっちが書いてくれていた通り、まじで「ままならない」話で。でも、この人たちはみんなやりたいことをやってるっていうのがいいところだよね。多分この人たちはもう一回人生やり直せるって言われても同じようになる気がする。

さて、ままならない話といえば、今回すすめてもらった『侍女の物語』もまさしくそういう話。ディストピアSFって怖いんだよね〜!(ほぼトートロジーだ)、でも、すごく面白かった。よくフェミの間で出てくる最悪社会、我々もこれに突っ走ってるかもしれないよ!とよく警鐘を鳴らすのに使われるやつ。主人公の女性は、ある日、仕事をいきなりクビになり、銀行口座を近親の男に統合され、子宮扱いされます(凄まじくざっくりしたあらすじ)。ちなみにamazonで買ったんですけど、帯に「トランプ政権の未来がここにある」って書かれたね。なんかトランプ政権が発足した前後にドバッと売れたらしい。『一九八四年』がそうだっていうのは知っていたんですけど、そこは勉強不足だった。まあ、わたしは日本も似たようなもんだろ、というか日本会議が求めてるのは究極的にいえばこんな感じなんじゃないのと思いますけど。

さておき、内容の話をしますね。わたしが思う長編小説のいいところの一つに、淡々と続く本文の中に突然ウワッとくるような力の入った文が出てきて浮かび上がって見えるところがあり、それに邂逅すると超興奮できるというのがあるのですが、この話でいうと、二箇所。

許しもまたひとつの権力なのである。許しを乞うことは権力であり、許しを与えたり与えなかったりすることは、たぶん最も大きな権力なのだ。(文庫版、248p)

恋に落ちたわ、とわたしたちは言ったものだ。あの人に首ったけなのよ。私たちは落ちる女だった。私たちはその落下の運動を信じていた。それは空を飛ぶのと同じように無類に楽しく、同時にすごく寂しく、すごく極端ですごく不安な体験だった。神は愛である、とかつての人たちは言った。わたしたちにとっては愛が神だった。そして恋愛は、天国のようにいつでもそこに待ち受けていた。身近にいる特定の男性を愛するのが困難であればあるほど、わたしたちは観念的で絶対の「愛」を信じた。わたしたちはいつもそれが現実に顕現するのを待っていた。その言葉が肉体化するのを。(文庫版、412p)

す、すごいよねえ!!ちなみに、太字は原文ママだし、実際は太字のところはゴシック体なんだぜ。こういうところがSFのいいところだよねぇ!!さておき、この2つの引用は、もうこれだけで話の核が説明できるねっていうポイントにあたるところだと思う。女性が、肉体を自分の精神から切り離され、単なる子宮として扱われる世界、それが政治的な制度として起きている世界、そして主人公の女性はまだ人を愛することを覚えているっていう話なんですよね。しかも、主人公は、超絶強い女性じゃない。不倫相手として付き合ってた男に妻と別れるように言って結婚したりするし、権力に立ち向かう!みたいなことをしたりはしない。ずっと迷ってるし。だからスカッとする話ではないんだけど、そこは陰のヒロインたるところのフェミ暴力ガール、モイラがいるから大丈夫。彼女はいいキャラクターだよね。読んでいても、いいポジションだな〜と思った。ただ、ふ〜んと思ったのは、この人、レズビアンのフェミでモノガミー支持なんだね。主人公が妻ある男に入れこんだときに批判してたもんね。モノガミー支持をするのはヘテロフェミのイメージがあったので(婚姻という既得権益を守るならモノガミー支持をしなきゃいけないでしょ)、そこはふーんと思ったんだけど、まぁ色々いますからね。そこは流すことにしよう。

とにかく、この話は基本的には本人たちが淡々と日常生活を進めていく様子が描写されているんだけど、その中にいきなりこういうのが出てきて、こっちはびっくりするわけです。そして、それが核だと気づくという。あと、個人的にびっくりしたのは、巻末の「『侍女の物語』の歴史的背景に関する注釈」!!解説を読み終わる前に読むことが多々ある派なのですが、これは読んでなくてよかった〜〜!!!!ていうか、解説じゃねーし、メタっぽく書かれてるけど本文の一部だし!!こういう話大好きで、ていうかメタのネタが大好きで、会社に遅刻しそうなほど夢中になって読んだよね。最初の描写がつらいので一人で読んでいたら挫折していたかもしれないけど、読書リレーだからこそ読みきれて、結果とても楽しめました。まっちありがとう!!

冗長になりそうなのでこの辺りで総括しておくと、今回は「ままならない」話2といった感じでしたね。ただ、『乳と卵』とは違って、『侍女の物語』の主人公が時を戻せたら、それは戻すと思う。本人の自由意思でそうなっているわけではなく、制度の問題だからね。あと、この本読んだあとに主人公やモイラが書いたっぽい短冊とか見ちゃったら心臓止まると思うから、わたしはそういうことがなくてよかったよ〜(?)。川上未映子の描く女性には、実際ちょっと会いたいよね。

そして、早速、次の本の話をしますね!こんな傑作の後だと悩んじゃうよー!前回、まっちは好きな本で選んでくれたんですよねー。わたしが大好きな本として、藤田弘夫の『都市の論理』と、吉見俊哉の『博覧会の政治学』があるんですけど、学術書なのでまたの機会に。
栗原康の『死してなお踊れ』でどうですか?いま流行りの人。栗原康は他にも『村に火をつけ、白痴になれ』、『はたらかないで、たらふく食べたい』も読んだんですけど、『死してなお踊れ』が一番最近読んで比較的まともだったので、これにします。10日間ずつって話だったけど、面倒だから毎月9日縛りってことでいいですよね。よろしく!!!

次回 8/9(水)まで:栗原康『死してなお踊れ』

これからの少女趣味と政治の話をしよう

桜庭一樹『青年のための読書クラブ』

どうも〜。まっちから薦められたので、桜庭一樹の『青年のための読書クラブ』を読みました。桜庭一樹っていうと、わたしにとっては『私の男』ですね。『私の男』が直木賞を獲ったのが2008年、そのころ我々は高校生ですか?ずいぶん多感な(と言われる)ときにニュースに出ていた人ですね〜。あと、代表作でいうと『赤朽葉家の伝説』ですか。これはわたしは未読なんだけど、小さい頃から読んでいた小島アジコが801ちゃんのコミックスの中で描いていたような気がする(ちゃんと参照していない、すまない)。とにかく、ずらずら並べてみると、確かにわたしの時代の人ではあるけれども、わたしは上っ面の情報しか知らないという存在なわけです。

で、読んでみて、本当にこれが面白かった。舞台は、それこそマリみてを彷彿とさせる、エスカレーター式の女子校。うるわしき女子たちからあぶれた者が集まる、旧校舎の裏の、雑木林のそのまた裏の、崩れかけた赤煉瓦ビルの3階、読書クラブで繰り広げられる少女たちの話……なのですが、内容は完全に政治の話なわけですよ。ふんわりしていると思いきや、実のところは少女が目をつけた人間を選挙で勝たせるために発育のいい同級生を売るとかが当たり前に出てくる世界なのですね。これ、はじめは志村貴子様の最強百合漫画『青い花』やんけ!!(表紙も志村貴子だし!!)と思ったけど、今思えばお前はバカかという話ですね。バカなのですが。

あと、これの面白いところ、もう一つ。物語の中で、時代がどんどん移り変わっていく、言うなればクロニクルなわけですが、その時代背景に合わせて彼女たちがバブルっぽい服装になったり、日本の経済活動のあおりをうけて入学する生徒たちの性質が変わったりする。そんなの少し考えてみれば当たり前のことなんだけど、わざわざ書いてくれる小説ってなかなかないですね。とても親切だし、面白い。それでいてこういう小説の醍醐味であるところのちょっと不思議な感じは残しつつ、最終的には女子たちの連帯と未来への展望で終わる、みたいな、本当に綺麗にまとまった小説だと思いました。

ところで、先述した最強百合漫画『青い花』は同級生を性的に売らない方のお嬢さんたちの話なんですけど(語弊がある)、どちらでも明確に性欲はあったね。やっぱりそこは絶対に書きたいところなんでしょうか。まあ、若い女子の性欲は隠されがちだよね。

さて、次ですね。こう若い女子の性欲みたいな話で、わたしが読んでいるもので、相互理解に与するようなものと連想していくと、絶対に外せないのは小川洋子『妊娠カレンダー』っすね。小川洋子はどれを読んでも文体がふんわりしているイメージだけど、妊娠カレンダーは初期のそれで、めちゃくちゃ尖ってる。この時点では博士が何を愛しているんでしょうか?って感じ。かっこいい。あとは、高尾長良の『肉骨茶』もいいっすね。でも、まあ、この部門でいくと一位は川上未映子『乳と卵』じゃないですか?桜庭一樹が直木賞作家なら、こちらは芥川賞作家ということで、バランスもとれていい感じじゃないでしょうか?ちなみにわたしはこの話が賞をとったときに同級生よりいち早く内容を見て発狂してしばらく読めず、20歳を過ぎてからちゃんと読んで納得したという経緯があります。よろしくお願いします。

次回 7/19(水)まで:川上未映子『乳と卵』